YUNON STUDIO BLOG

ユノンスタジオ主宰のブログです。

舞台役者さんにとって必要な、観客の視線誘導手法

視線誘導。

 

舞台演出を始めてから、稽古場で僕が一番多い頻度で使った単語だ。

キャラクターの感情を突き詰める事はやっぱり皆どの役者さんも上手なのだけど、感情を突き詰めた先にある弊害として、客の視線を自分に向かわせる事への注意が疎かになってしまうパターンが想像以上に多い。つまり、とても良い表情でとても良い台詞を発しているにも関わらず、その役者を客が見た時には既に台詞が喋り終わってしまっていたりする。もともと映像畑で編集業をしている僕にとっては、視点誘導を作る事こそが映像編集の中核みたいなものだから、舞台上で視点誘導が失敗している瞬間が何よりも気になって仕方がない。舞台役者さん達はもっともっと人の視線の動きに関して注意を払うべきだと思う。それだけできっと、同じ感情を入れているお芝居に対するイメージが何倍もきっと良くなる。

 

では、具体的にどうしたらお客さんの視線をしっかり誘導できるのか。

 

☆人を反応させるには五感を刺激するしかない

僕たち人間は五感と呼ばれる装置を持って生きている。

視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。けれど舞台を見ている観客が使える感覚は前の二つにほぼ限られてしまうだろうから(香りは使うところもあるだろうけども)、つまりは客の視覚と聴覚に頼る事になる。逆に言えば、観客も観客でその事を承知しているのだから、観客達は普段以上に視覚と聴覚に敏感になってくれているともいえる。

 

例えばスポットなどの照明光やSEなどの音響効果で注意をひく事などは、演出サイドの領域になるので今回は省いてしまうとして、じゃあ役者さんはどうやって観客に自分を見てもらえばいいかというと、本人にとってはやっぱり動くしかないし、喋るしか手だてがない。

 

☆視覚(知覚)の遅れは0.5秒〜

役者が動くor喋る→観客がその役者に向く→役者が重要な行動をするor重要な台詞を喋る。この一連の流れに必要な時間は、視覚(知覚)の遅れを加味するならば0.5秒〜1秒程だ。作品的な死に間を作らずに、つまり0.5秒稼げばしっかりと観客に表情も言葉も感情も受け取ってもらえる事になる。

 

☆ヒントは幼稚園のお遊戯会

これ、幼稚園とかのお遊戯会を思い出してもらえば解ると思うのだけれど、実際園児達は皆これをやらされているんだよね。一歩前に進んで喋る、また別の人が一歩前に進んで喋る。照明設備もない幼稚園で、いわゆるお芝居ができない年齢の子供達をどうやって親御さん(観客)にしっかり見てもらうか考えたあげくの極限までにデフォルメした演出が「先に動いて止まって喋る」だったわけだ。これはあながち馬鹿にはできないお話で、つまりは上記のそれをしてしまっては勿論おしばい下手の烙印を押されてしまうわけだけど、視線誘導を考えて行き着く先は「一歩前に進んで喋る」である事をしっかりと認識した方がやり易いのではないかなと思う。あ、でも勘違いしないで欲しいのは、一歩前に動けなんて事はもちろん言ってないわけで、動いてから喋るまで(逆もまたしかり)の0.5秒〜1秒の間で、どのような動作とタイミングでその台詞を放つか、キャラクターの感情とどう折り合いをつけるかをせめぎあってこそ、作品に必要なお芝居が完成するのだと思う。というような話。

 

☆共演者としての視線誘導アプローチ

さきほど「本人にとってはやっぱり動くしかないし、喋るしか手だてがない」と書いた事には理由があって、本人以外からも実は観客の視線というのは誘導できる。そして実はこちらの方が遥かに重要な事だったりする。

共演者が振り向いてくれたり、視線を送ってくれると、観客もまたその向いている視線の先を見る。つまりはスポットライトのような効果を実は役者さん同士で持たせ合う事ができる。けれどなかなか、そこらへんの作為的なコミュニケーションが実は行われていないなぁと残念に思う。例えば役者Aが役者Bを見れば、観客は役者Bを見る。するとどうだろう。役者Bは初動のタイミングなど気にもせずに感情を爆発させられる。それはつまり0.5秒のいくぶんかの短縮を意味することにもなる。

大概の作品のどんな役者のクライマックスシーンもほどよく見える(観れる)のは、上記の理由が大きい。もとより脚本上で互いに言葉や感情をぶつけ合うシーンであるが故、視線の交換が絶えず行われ、そしてリズムが早まる。結果、感情を爆発させたキャラクターの表情や行動を観客は逃す事なく捉えていて感動する。さらにはクライマックスだと音響と照明効果も花盛り。パズルゲームでいうとその状況は結構なイージーモードだ。

 

☆視線を向ける上での注意点

ただ視線を向けていれば観客もそっちに向いてくれるというわけではない。先ほども書いたけれど、観客は視覚と聴覚によって作品を鑑賞しているから、その二つに対して観客は非常に敏感になっている。だからこそ更新される新しい情報に対して、即座に反応してしまう。という事は、ずっと相手に視線を向けていたとしても、観客は最初の一回しか反応をしてくれないという事だ。もう一度相手を見てほしければ、もう一度視線を適切なタイミングで送らなければいけない。だからずっと真面目に相手を見つめながら会話をする事のリスクを役者さんは考えて演じなければいけない。もちろんコミュニケーション中に視線があやふやなお芝居は集中力を削ぐし、コミュニケーション能力の低いキャラクターを演じているという望んでもいないディテールに変化してしまう可能性もあるから注意をしなければいけないので、自分以外の共演者に常に適切にアシストするという事は本当に難しい事だと思う。ただ実生活を参照すれば、誰かと会話している時にずっと見つめ続ける事なんて事はほとんど無いわけで、それが例え大切な商談相手だったとしても、視線を外して許容されるタイミングは多々ある。それらを日常生活から体にしっかり取り込んでお芝居に転化するべきかなと思う。

 

☆道井良樹という人

急に個人名を出すのも変かもだけど、僕が4月に公演した舞台に出演してくれた道井良樹さん(電動夏子安置システム)という役者さんは、その誘導アシストが本当に上手い。視線を送るタイミング、視線を外して違和感なく別の風景を眺める、また相手へ意思を向ける、その流れがとても自然で見ていてドキドキするほどだった。

彼が主演を演じてくれているだけで、更に4月の舞台は彼演じるサボテンが物語の狂言回しのポジションであるからして、その恩恵があらゆるキャラクターに随所に効いて皆満遍なく美味しいスペースを手に入れられた。おかげでこうした難しいお話を事細かに説明せずとも順調に稽古は進んでいったのはとても良い思い出。そういった役者さんがもっともっと増えればいいなぁ、と思う。

役者さんだったり、志望している子達はそうした部分を考えながら道井さんの舞台を観に行ってくれたらなぁと思う。観るだけでは中々習得できないからあれだけど、でも上手さという面はしっかり実感できるかと。

道井さんは明日、明後日で終わりみたいだけど今も新宿シアターサンモールで舞台をやってるので是非。今回は端役なので、縦横無尽に視線を操作する道井さんの本領(才能)はいつもよりも影をひそめておりますが。。。それでも堪能できます。所属劇団では常に爆発してるので、そっちの方も何個か情報最後に乗せておきます。

 

あ、あと、四月公演でいえばモッコ役だった足立雄大郎も誘導アシストが上手い。彼の場合は技術というよりは天性のものといった感じ。でも素直にスゴいと思う。観てて気持ちいい視線のキッカケを与えてくれる良い役者さんだ。

 

☆視線誘導のバトンリレー

ということで、視線誘導における理想のお芝居環境は相互コミュニケーションで役者同士が同じ意図のもと視線を操作していく事にこそあると僕は思う。それぞれ役者は舞台上で常に「観客の視線」というバトンを渡し合ってカーテンコールまで走るバトンリレーをしていると思えばいい。体をどこに持っていくかも勿論大事なのだけど、立ち位置とはまた違った、見えないレーザー光線をそれぞれに当て合ってポジショニングを取る楽しさも意識してお芝居をしてもらえたらいいなぁと思う。「感情」や「間」に関して役者さん同士で相談している場面は多々あるけれど、「視線」について相談する機会を稽古中とかももっと増やしてもらえたら、また違った風景が見えてくるのでは。

簡単に自分なりのイメージでいえば、視線を向けるっていう事を習得するには「視線を外す」事がどういう事かを掘り下げれば答えは出てくるかなと。視線を向け続けている人の大概は、視線の外し方を知らない人というイメージが僕にはある。

 

☆視線誘導の失敗と死に間は別物と区別するべき

本人にとってのアクションとしての誘導アプローチ、そして共演者としての誘導アプローチ、双方が同一の意図のもとめまぐるしく交差すればこそ、観客は息つく暇もない舞台を味わえる。僕が観客で観に行って、ちょっと顔を下に向けたり、一緒に観劇しにいった人を見たりする時っていうのは、脚本の面白さとか別に関係なく、だいたいその誘導アプローチがすっぽりなくなってしまっている落とし穴にはまった場合に起こる事が多い。それは役者さんが気にしている、台詞の「死に間」とはまた別のもの。別の落とし穴があるって解るだけで、きっとだいぶ回避できるようになるはず。

 

その為にはやっぱり何よりもまず、同一の意図を共有する事。

それってつまりは、ちゃんと脚本を読めるようになる事だと思うから、結局ちゃんと役者さんには沢山本読んで欲しいなぁなんて思いつつ、終了。

 

以下、道井さんの舞台詳細。

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 <山田ジャパン>
いとうあさこ
カワモト文明
ただのあさのぶ
羽鳥由記
松本渉
横内亜弓
若村勇介
大海エリカ
<GUEST>
あやまん監督(あやまんJAPAN)
島根さだよし
玉手みずき
濱地美穂乃
道井良樹(電動夏子安置システム)
森一弥(エネルギー)
安田ユーシ
ユミ(Juliet)

 

【日程】

6/12(水)19:30
6/13(木)15:00 / 19:30
6/14(金)19:30
6/15(土)15:00 / 19:00
6/16(日)13:00 / 17:00

 

【チケット料金】
前売:3800円
当日:4300円
(全席指定)

 

予約は

noumenkun@hotmail.com

 


【黄金のコメディフェスティバル】参戦

8/16(金)~25(日)

電夏は【楽】に出演!!
詳細 http://www.come-fes.com/

 

 

■電動夏子安置システム

 池袋シアターグリーン3劇場同時公演

 10月23日~27日

 

◆第28回公演【檻の中にいるのはお前の方だ】
@BASE THEATER
◆第29回公演【机の上ではこちらが有利】

@BOX in BOX THEATER
◆第30回公演【ずいぶんと線引きの甘い地図】
@BIG TREE THEATER